犬のしつけ完全版|人と犬がよりよく暮らすために必要な基本

犬のしつけ完全版|人と犬がよりよく暮らすために必要な基本

犬のしつけを始める前に、まず大切にしていただきたいことがあります。
それは「犬にどうしてほしいのか」を、私たちが明確にすることです。

犬のしつけというと、お座り、待て、伏せ、吠えを止める、飛びつきを直す、散歩で引っ張らないようにするなど…
具体的な方法に意識が向きやすいと思います。
それらももちろん方法も大切です。

しかし、方法よりも先に考えるべきことがあります。
それが、飼い主様自身が愛犬とどのように暮らしていきたいのか、何を大切にしたいのか、
どこまでを許容し、どこからは教えていく必要があるのかという「生活の方向性」です。

犬のしつけは、人が率先して犬を導いていくものです。
人が迷っていると、犬も迷います。
皆さん、「吠えをどうにかしたい」「甘噛みをどうにかしたい」など解決したい問題は見えていると思いますが
なぜそれをどうにかしたいのでしょうか?

ここが分からないまま、私たちがしつけをするとします。
犬はただ叱られたり、ただ褒められたりするわけです。
これでは私たちが伝えたいことを犬は理解できません。

だからこそ、まずは人側が「こう暮らしたい」「ここは守ってほしい」「これはできるようになってほしい」と考えることが必要です。

この時に大切なのは、最初から「こんなことを求めたらかわいそうかも…」と考えすぎないことです。
もちろん犬の気持ちを無視していいという意味ではありません。
最初に人が求めたい暮らしの形を明確にし、その上で犬が受け入れられる範囲、
負担の少ない教え方、妥協点を探していくという順番が大切です。

犬に寄り添うためにも、まずは人が自分の希望を理解する必要があります。
あなたがあなた自身と、あなたの愛犬を理解していないと、しつけはうまく進められません。

犬のしつけとは何か

犬のしつけとは
犬が人と一緒に暮らすために必要なルールや生活習慣を、人の主導で教えていくことです

しつけという言葉には、厳しく管理するような印象を持つ方もいるかもしれません。
しかし、本来のしつけは“人と犬の関係をよりよくするため”のものです。
どちらか一方だけが我慢するものではありません。

犬が自由に楽しく過ごすことも大切です。
一方で、人の社会の中で暮らす以上、犬には人の生活に合わせてもらう場面があります。
家の中で落ち着いて過ごすこと、来客時に興奮しすぎないこと、散歩中に危険な方向へ引っ張らないこと、
他の犬や人に過剰に反応しないこと。

これらは犬を縛るためではなく、人と犬が安全に、安心して暮らすために必要なルールです。

つまり、しつけとは「人の都合だけを押しつけること」でも「犬の自由をすべて優先すること」でもありません。
人が求めたいことと、犬が受け入れられることのバランスを取ることです。

人が求めたいことを明確にする

しつけを始める前に、まず飼い主様が愛犬に何を求めたいのかを考えてみてください。

犬とお出かけしたい。
カフェに一緒に行きたい。
家で落ち着いて過ごしてほしい。
来客時に吠え続けないでほしい。
散歩でゆったり歩きたい。
ドッグランで安全に遊べるようになってほしい。
芸を教えて楽しくコミュニケーションを取りたい。

どんなことでも構いません。まずは飼い主様が望む暮らしを明確にすることが大切です。

ここで「犬は自由に生きるべき」「人間ファーストで考えるなんてかわいそう」と感じる方もいるかもしれません。
その気持ちは、犬を大切に思っているからこそ出てくるものだと思います。

ただ、犬を大切に思うことと、犬に何も求めないことは同じではありません。
犬は人と同じように言葉で話し合うことはできません。
だからこそ、人が分かりやすく導いてあげる必要があります。

人が方向性を決めずに、犬の行動にその場その場で反応しているだけでは、犬は何が正解なのか分からなくなります。
行き先を決めずに地図だけを持って歩いているようなものです。
歩いているのに、どこにもたどり着けません。

しつけは、まず目的地を決めることから始まります。

犬を尊重することと擬人化の違い

犬を大切にしたい、犬の気持ちを尊重したいという想いが大事だとお伝えしました。
しかし、その思いが強すぎるあまり、犬を人間のように見すぎてしまうことがあります。

人は想像力が豊かな動物です。
相手の気持ちを想像し、まだ起こっていないことまで考えることができます。
その力があるからこそ、人は他者と協力し、社会を作り、文化を発展させてきました。

一方で、その想像力によって、犬の気持ちを人間の感覚で解釈しすぎてしまうことがあります。

「これをさせたらかわいそう」
「我慢させるのはつらいはず」
「叱ったら傷つくかもしれない」
「自由にさせないと愛情が足りないのではないか」

このように考えること自体は悪いことではありません。

しかし、犬は人間と同じように、感情を複雑に隠したり、建前で振る舞ったりする動物ではありません。
犬の感情は、行動に表れやすいものです。

嫌なものは嫌、嬉しいものは嬉しい、怖いものは怖い。
犬はとても素直に反応します。
だからこそ、犬の行動をよく観察し、その子にとって何が負担で、何が必要なのかを見極めることが大切です。

しつけは苦痛を与えるためのものではない

ここで誤解していただきたくないのは、しつけは犬に一方的な苦痛や我慢を強いるものではないということです。

犬のしつけは、人と犬の未来をよりよくするために行うものです。
たとえ一時的に犬が我慢をする場面があったとしても、その先に犬が落ち着いて、
快活に、人と安心して暮らせる未来があるなら、その過程には意味があります。

例えば、クレートに入る練習が最初は苦手な犬もいます。
しかし、クレートで落ち着けるようになれば、移動、災害時、病院、宿泊、来客時など、さまざまな場面で犬自身を守ることができます。

散歩で引っ張らない練習も、最初は犬にとって自由に動けないように感じるかもしれません。
しかし、人と歩調を合わせて歩けるようになれば、交通事故やトラブルを防ぎ、散歩そのものを安全で楽しい時間にできます。

しつけは、犬を不自由にするためではありません。犬が人の社会の中で安心して自由を得るために必要な土台です。

犬のしつけに必要な一貫性

犬に何かを教える時、最も大切なことの一つが一貫性です。

犬は人の言葉を、人間と同じようには理解していません。
もちろん、よく聞く言葉や合図を覚えることはできます。
しかし、文章の意味や人の細かい意図を理解しているわけではありません。

犬は、体の動き、雰囲気、声のトーン、タイミング、繰り返し起こる流れなどから学習します。
つまり、人が犬に何かを教える時は、犬が理解できる形に置き換えて伝える必要があります。

その代表的なものが、お座り、伏せ、待て、呼び戻しなどの基本的な指示です。
これらは単なる芸ではありません。人と犬の共通言語になります。

人の希望を犬が分かる行動に置き換える

例えば、飛びつきをやめてほしい場合を考えてみましょう。

人からすると「飛びつかないで」という意味は分かりやすいかもしれません。
しかし犬にとっては、「飛びつかない」という行動は少し分かりづらいものです。

何をしないのかを教えるだけでは、犬は代わりに何をすればいいのか分かりません。
そこで必要になるのが、代わりの行動です。

飛びつく代わりに、お座りをする。人に興奮して向かっていく代わりに、足元で落ち着く。
吠え続ける代わりに、クレートで休む。引っ張る代わりに、人の横を歩く。

このように、やめてほしい行動とセットで、代わりにしてほしい行動を教えることが大切です。

飛びつきの場合であれば、犬が飛びつこうとした瞬間に「お座り」を指示し、お座りできたら褒めます。
この流れを繰り返すことで、犬は「飛びつくのではなく、お座りをすればいい」と理解していきます。

成功体験を積ませる

犬は成功体験から学習します。

ここでいう成功体験とは、人にとって正しい行動だけを指すわけではありません。
犬自身が「できた」「目的が達成された」と感じた行動も成功体験になります。

例えば、飛びついた時に人が反応してくれた。吠えたら相手が離れた。
引っ張ったら行きたい場所に行けた。このような経験があると、犬にとってその行動は成功として学習されやすくなります。

人から見ると困った行動でも、犬にとって成功している場合があります。
だからこそ、しつけでは失敗させない環境づくりと、正しい行動を成功させる流れが重要です。

目安としては、同じ流れで20回から30回ほど、失敗させずに成功体験を積ませることを意識してください。
数回できたからといって、すぐに定着するわけではありません。

犬が自分から正しい行動を選び始めた時、理解が進んできたと考えます。
飛びつこうとした犬が、自分からお座りをするようになったら、「飛びつく代わりに座る」というルールが入り始めているサインです。

褒めることと叱ることの役割

犬に行動を教える時、一貫性だけでは十分ではありません。
教えた行動が合っているのか、間違っているのかを犬に伝える必要があります。

そのために必要なのが、褒めることと叱ることです。

褒めることは、その行動が正しいと伝えるための手段です。
叱ることは、その行動は違う、やめてほしいと伝えるための手段です。

どちらも、人が犬に行うフィードバックです。

褒めるとは何か

褒めるとは、犬が行った行動に対して「それで合っているよ」「よくできたね」と伝えることです。

おやつをあげる、声をかける、撫でる、遊ぶ、笑顔で反応するなど、犬にとって嬉しいと感じるものが褒めになります。

ただし、人が褒めているつもりでも、犬が嬉しいと感じていなければ、それは褒めとして機能していません。
犬によって、何を嬉しいと感じるかは違います。

おやつが大好きな子もいれば、声をかけられるだけで嬉しい子もいます。
撫でられるのが好きな子もいれば、触られるより一緒に遊ぶ方が嬉しい子もいます。
逆に、興奮している時に撫でられることで、さらにテンションが上がってしまう子もいます。

大切なのは、「人が何をしたか」ではなく、「犬がどう受け取ったか」です。

叱るとは何か

叱るとは、犬に対して「その行動は違う」「やめなさい」と伝えることです。

叱るというと、大声を出す、怒る、怖がらせるというイメージを持つ方もいるかもしれません。
しかし、本来の叱るは感情をぶつけることではありません。
間違った行動に対して、犬が理解できる形でフィードバックを返すことです。

叱り方には軽いものから重いものまであります。
声のトーンを変える、動きを止める、リードで制御する、嫌なことが起こったと伝えるなど、さまざまな段階があります。

ここで大切なのは、叱ること自体が悪いのではなく、叱り方を間違えることが問題だということです。

犬に正解を教えずに叱る。感情的に怒る。犬が理解できないタイミングで叱る。
強すぎる刺激を与える。関係性ができていない状態で叱る。
このような叱り方は、犬を混乱させたり、不安にさせたり、関係を悪化させる原因になります。

一方で、正解を教えた上で、犬が理解できるタイミングと強さで「それは違う」と伝えることは、しつけにおいて必要な場面があります。

体罰についての考え方

犬のしつけにおいて、体罰という言葉は非常にデリケートです。
体罰は絶対にいけないと考える方も多いと思いますし、その感覚は自然なものです。

人間社会において、体罰は基本的に必要ありません。
人は言葉で話し合うことができます。
相手を対等な存在として見ていれば、力で従わせる必要はありません。
人に対して体罰を使う場面の多くは、感情が爆発した時や、相手を自分より下に見ている時です。

では、犬に対してはどう考えるべきでしょうか。

犬は人間の言葉を、人間同士のようには理解できません。
犬同士のコミュニケーションを見ても、言葉で話し合っているわけではなく、
ボディランゲージ、距離感、圧、唸り、噛み合いなど、体を使ったやり取りが多く含まれます。

だからといって、人が犬に対して力任せに何かをしていいという意味ではありません。
むしろ、安易な体罰は非常に危険です。
使い方を間違えると、攻撃性が増したり、人への不信感が強くなったり、反抗的な反応が出たりすることがあります。

体罰が問題になる理由

体罰そのもの以上に問題なのは、体罰の使い方です。

正解を教えていないのに罰だけを与える。
犬との関係性ができていないのに強い刺激を使う。
犬の性格や反応を見ずに力任せに行う。
叱った後にフォローをしない。なぜ叱られたのか犬が理解できていない。

このような体罰は、しつけではなく虐待に近いものになります。

私が考える虐待とは、理不尽なものであること、健康や心身を損なうものであること、それを行うことで良くなるどころか悪くなることです。

犬に必要なのは、恐怖で支配されることではありません。
正解を教えてもらい、必要な時に間違いを伝えられ、その後にどうすればいいのか導かれることです。

体罰を安易に使ってはいけない

体罰が必要になるケースがあるとしても、それは非常に限定的です。

気が弱い子、優しい子、繊細な子、誘導で十分に伝わる子には、体罰は必要ありません。
多くの家庭犬は、環境設定、褒め、軽い制止、代わりの行動を教えること、関係作りによって改善できることが多いです。

強い対応が必要になる犬は、それなりに強さを持っています。
興奮が高い、攻撃性がある、人に向かって歯を使う、自分の主張が非常に強いなど、
一般の飼い主様が想像する家庭犬の姿とは違う場合もあります。

そのような犬に対しても、ただ強く叱ればいいわけではありません。
正解を教えていること、関係性があること、力の調節ができること、叱った後にフォローができること、安全を確保できることが必要です。

体罰という言葉だけで全てを肯定するのも、全てを否定するのも、犬の実際の姿を見落とすことにつながります。
大切なのは、その犬にとって何が必要で、どの方法が安全で、どのように未来を良くできるかを冷静に考えることです。

犬との関係作り

しつけを進める上で、犬との関係性はとても重要です。

犬に何かを教える時、人から犬へコミュニケーションを取る場面が多くなります。
その時、人が伝えたいことを犬がどう受け取るかは、日頃の関係性に大きく左右されます。

同じ言葉、同じ動き、同じ褒め方でも、犬がその人を信頼しているかどうかで受け取り方は変わります。

普段から安心できる人、大好きな人、分かりやすく導いてくれる人から褒められれば、犬は嬉しく感じます。
反対に、普段から関係が薄い人、怖いだけの人、何を考えているか分からない人から褒められても、犬には響きにくいことがあります。

愛犬との関係をチェックする

愛犬との関係を見る時は、犬の反応を観察してみてください。

声をかけた時に嬉しそうにするか。
撫でた時に体を寄せてくるか。
名前を呼んだ時に意識を向けるか。
褒めた時に尻尾を振る、耳が寝る、表情が柔らかくなるなど、ポジティブな反応があるか。

ただし、犬種や性格によって表現は違います。
大きく喜びを表す子もいれば、控えめに反応する子もいます。
触られることが好きな子もいれば、近くにいるだけで満足する子もいます。

褒めた時に派手な反応がないからといって、必ずしも関係が悪いわけではありません。

一方で、何かを求めた時に唸る、噛む、逃げる、体を固める、明らかに嫌がるといった反応がある場合は、
関係性や接し方を見直す必要があります。

犬にとって心地よい距離を知る

関係作りで大切なのは、犬にとって心地よい距離を知ることです。

人が大好きでも、触られることは苦手な犬がいます。撫でられるより、声をかけてもらう方が嬉しい犬もいます。
抱っこされるより、近くにいられるだけで安心する犬もいます。

このような犬に対して、人の愛情表現を押しつけてしまうと、犬は人との関わりにストレスを感じるようになります。

まずは無理に触らないこと。犬がこちらに意識を向けるまで待つこと。
犬の反応を見ながら距離を近づけたり、離れたりすること。
どんな声かけ、どんな触り方、どんな遊び方を喜ぶのか観察すること。

犬の反応を見ながら適切に対応していくことで、犬は少しずつ人に信頼を寄せるようになります。

しつけは方法ではなくバランスで考える

犬のしつけ方法には、さまざまな考え方があります。

おやつを使う方法、クリッカーを使う方法、褒めて伸ばす方法、叱ることも取り入れる方法、
リードを使って制御する方法、犬同士の関わりから学ばせる方法など、いろいろな方法があります。

犬のしつけ業界では、方法ごとに考え方が分かれていることもあります。
「褒めるだけでいい」「叱ることは絶対にいけない」「厳しく接するべき」など、極端な主張を耳にすることもあるかもしれません。

しかし、実際の犬のしつけは、一つの方法だけで成り立つものではありません。
犬の性格、年齢、経験、問題の内容、飼い主様の生活、家庭環境によって、必要な方法は変わります。

一つの方法に固執することは、風邪で体調を崩している人に、症状を見ずに「この薬だけ飲めば大丈夫」と言っているようなものです。
どれだけ良い薬でも、症状に合っていなければ効果を発揮しません。
場合によっては、合わない方法が副作用のように悪い結果を生むこともあります。

犬のしつけも同じです。大切なのは、方法そのものではなく、その犬と飼い主様に合っているかどうかです。

まとめ|犬のしつけは人と犬の未来を作るもの

犬のしつけは、人が犬を支配するためのものではありません。犬を自由にさせるだけのものでもありません。

人と犬が一緒に暮らしていくために、お互いにとって無理のないルールを作り、犬に分かる形で伝え、良い関係を育てていくものです。

そのためには、まず飼い主様が愛犬とどう暮らしたいのかを明確にすることが大切です。
人が求めたいことを決め、その上で犬が受け入れられる範囲を見極め、必要な方法を選んでいきます。

犬に何かを教える時は、一貫性を持って、犬が理解できる行動に置き換えて伝えること。
やめてほしい行動だけでなく、代わりにしてほしい行動を教えること。
正しい行動には褒めを、間違った行動には適切なフィードバックを返すこと。
そして、それらが伝わるための関係性を日頃から築いておくこと。

しつけは、最初からスムーズにいくものではありません。
多くの飼い主様が、試行錯誤しながら愛犬と向き合い、少しずつ関係を深めていきます。

大切なのは、できない部分だけを見て自分や愛犬を責めることではありません。
今はどの段階なのか、何が伝わっていて、何がまだ分かりにくいのかを見極めることです。

犬のしつけは、あなたと愛犬だけのオーダーメイドです。
愛犬の性格や反応をよく見ながら、人と犬のどちらか一方に偏らない、よりよい暮らしの形を作っていきましょう。

犬との毎日が、もっと楽しく、もっと安心できる時間になりますように。

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